思いついたことを書く

思いついたことを思いついた順に書いていきます。お話が途中でもそのままかもしれないし、いつの間にか完結してるかもしれないし、なくなっているかもしれません。あと途中で小話はいります。

逆視点

「じゃあもうお兄ちゃんからは絶対にしてあげませーん!しらねーからな!」
そう宣言してからもう3日。本当に、なにもしてこない。そういうことはおろか触ることすらなくて、だんだんに不安になってきた。さっきだって、こっちを見てたから声をかけたのに何も言ってくれなくて、そのまま出掛けてしまったし。
どうしよう。本当に怒っているのかもしれない。俺が、自分から…誘わないから?こういう時、兄に頼りきりだったことを思い知らされる。何でも教えてくれたし、助けてくれた。でも今回ばかりはその張本人が悩みの種なのだからそうもいかない。
溜め息が勝手に出る。手にした鏡に映る姿はどう見ても自分にしか見えない。これがおそ松だったらいいのになぁ、となんとなく思った。同じ顔のはずなのに、全然違うように見えるのは何故なんだろうか。おそ松はあの性格からか基本的にいたずらっぽい、子供みたいな表情でいることがほとんどだが、たまに年相応かそれ以上に大人びた表情になる時がある。そういう時がたまらなくカッコよくて、見惚れてしまう。自分が目指すカッコいい顔はあれだ。鏡を見て真似してみるけど、全然うまくいかない。
また、溜め息が勝手に出た。

1週間目。
何もしてこないだけじゃなく避けられるようになってきた。目もあんまり合わないし会話も少ない。寂しい。寂しいって、こんな感じだったっけ?何だか全身から水分が抜けていくような感じがする。鏡に映る自分は泣きそうな顔をしていた。
今から誘えば、まだ許してもらえるんだろうか。それが、自分に出来るんだろうか。
そういう行為が好きか嫌いかで言えば、多分嫌いではない。抱き合うだけで体温が嬉しい。ただ、一方で怖いんだ。溺れてしまいそうで。どんどん、形を変えられていくのが。貪るように求めるようになってきてるのがわかるから、自分から誘ってしまえば歯止めが効かなくなるんじゃないか。それが、怖い。
今日も、何もできないまま、眠りについた。


更に3日。
もうカラカラになっていた。他の兄弟がいないのをいいことに出るに任せて泣いていた。我慢していなければ勝手に出てくるのだ。声が聞きたい。触られたい。さわりたい。考えなきゃいけないことがあるのに、そればかりで一杯になって、頭がぐるぐるしていた。

「………わっっ!!!」
「ぅわっ!!…じ、十四松?!」
急に沸いた大きな声に、慌てて顔を袖で擦る。野球に行ってた筈の十四松だ。いつの間に後ろにいたのか、全く気づかなかった。泣いてるの、見られてしまっただろうか…。
「………」
表情は変わらないが困っているのがわかる。
「…ごめんな、大丈夫だよ」
「……にーさん」
後ろから、ぽん、ぽん、と袖で隠れた腕で背中を軽く叩いてくれた。優しいな、俺の弟は。
「…大、好きな人になぁ、兄ちゃん、嫌われたかもしれなくてなぁ」
ぽん、ぽん
「でも兄ちゃんが悪いんだ。大切なことを言えずにいて」
ぽん、ぽん
「言う勇気が出せなかったんだ」
ぽん、ぽん、ぽん…
「にーさん、大丈夫!」
「え?」
肩をぐっと掴んで、十四松が力強く断言した。
「たぶん大丈夫っす!でも、大事なことは言った方がいいっす」
「……でも」
「わかってても、言ってもらえないのはだれだってちょっとはさびしいから」
「……」
「その『だいすきなひと』に、ちゃんと言ってあげて欲しいっす」
「…そうか……そうだな。ありがとう、十四松。もう、大丈夫だよ」
頭を撫でてやると、エヘヘと照れ笑いして
「そっかーよかった!じゃー俺、素振りしてくる!」
と、ドタドタとあっという間に出ていった。
「……よし」
パン!と両手で頬を叩く。弟にあそこまで言ってもらったんだ、もう腹を括ろう。
意を決して、2階への階段をゆっくり、上がり始めた。

**********

襖をあけると、窓際におそ松が座っていた。
「…おそ松」
声をかけても返事はない。でも。
(言わなきゃ)
部屋に入って襖を閉め、窓際へと向かう。なおもそっぽを向いたままのおそ松にこっちを向かせようと腕を引いたら、加減がうまくいかなくて引き倒す格好になってしまい、そのまま上に覆い被さってしまった。
顔の真下に、おそ松の顔がある。それだけで、涙が出てきた。ドキドキして、息が浅くなってしまう。
「おそ松」
名前を口にするだけで胸がぎゅっとしてしまう。そのまま顔を寄せていき、ようやく触れた。同時に涙が溢れて、ぱたぱたとおそ松の頬を濡らす。
あぁ。あぁ。おそ松だ。おそ松の体温だ。いろんな気持ちが一挙に押し寄せて止まらない。何度も唇を食んでしまう。でも足りない。もっと。もっと。近くなりたい。あぁ、伝えなきゃ。どうやって?でも。体内に侵入したくて、唇を舌でつつく。入れて、入れて、とねだってしまう。と、少しだけ唇が綻んだ。すかさず舌を押し込んで、口内を貪る。欲しい、もっと、埋めたい、あぁ、すき。すき。すき。
と、不意に肩を押されて、後ろに倒された。唇が離れてしまって、急に寂しくなる。片時も離れたくなかった。
「…カラ松」
「~~~っっ」
久しぶりの、おそ松の声。いや、声自体は聞いていたけど、こんな風に自分を呼ぶ声は、本当に久しぶりな感じがした。胸が締め付けられる。嬉しくて苦しくて切なくて、涙を止めることが出来ない。
そしてゆっくり、抱き締めてくれた。安心する、っておそ松が言う。安心するのは自分の方だ。触れているところから体温が染み渡っていく感じがする。世界の色が戻っていく。
また、唇を重ねる。舌を差し出すと、やさしく絡めてくれて、先を甘く噛まれた。背中から切なさが広がってぶるっと震えてしまう。肉体的な快楽と精神的な多幸感に溺れてしまいそうになる。どこを撫でられても気持ちがいい。指を絡めてきたので、ぎゅっと握った。離したくなかった。
片方の手がすっかり固くなった胸の突起を触る。敏感になりすぎて、軽く撫でられるだけで背中が反ってしまう。どうしよう。こんな、やらしいの、どうしよう。感じすぎてクラクラする。その時、絡めていた舌先をまた軽く噛まれるのと同時に乳首をきゅっと潰されて、カラ松は達してしまった。
(あ…あ…出、ちゃった…)
唇が離れて、荒い息が漏れた。貪るのに夢中で、息が浅くなっていたことにも気づかなかった。少しも目を逸らしたくなくて見つめていると、おそ松が目を細めて笑い、また抱き締めてくれた。
「あー…なんかね、もーホント、大好きだわお前」
「っお、俺も…好きだ、おそ松…っ好き…」
大好き、と言われてまた涙が出てくる。大好きでも愛してるでも足りない。言葉になりきれない分が涙になって溢れてくる感じがした。
でも、伝えなきゃ。ちゃんと。
改めて意を決して、話し始めた。
行為は嫌いではないこと。
気持ちもいいこと。
でも怖いってことも。
嫌われたくないってことも。
おそ松は一つ一つに頷きながら、俺の話を聞いてくれた。バカだな、って言いながら頭を撫でてくれる。それから、たまらなく優しい顔で言った。
「どんなお前でも、多分好きだよ」
…あぁ。
好きだ、って言われるのが嬉しいのは。
好かれてることが嬉しいのもあるけど、それだけじゃなくて。
好きだって言うときのおそ松の顔が、感じが、声が、何もかもが、好きで、大好きで、たまらないから、嬉しいんだ。

**********

気付けば夕方になっていた。2階に上がったのが昼前で、それからまぁ…ずっとその…していた。泥のように疲れた体を何とか引きずってシャワーを浴びて、ソファーに倒れこんで…そのまま、ちょっと眠ってしまったらしい。隣にいないおそ松を探すと、窓辺に座って煙草を燻らせていた。
夕陽に照らされる顔。少し目を細めて、視線は遠く遠くを見ていて。
あぁ、本当に、カッコいいなぁ。
声をかけたら、多分いつもの顔になってしまうから
、しばらく何も言えなかった。ずっとずっと、見ていたかった。
「……お、起きたか」
静寂を破ったのはおそ松の声だった。火を消してから近寄ると、頭を撫でてくれる。優しい手だ。頭から頬に移された手に、上から手を重ねたら。
「あのな」
口からするりと、気持ちが溢れた。

「俺も多分、どんなおそ松でも好きだ。どこでどんな風に生きるおそ松でも、俺は惹かれてしまうんだろう。そういう風に出来てるんだ。だから、この想いがたとえ遂げられなくなったとしても、嫌われてしまったとしても、俺はお前をずっと愛するよ。だから…いられる限り、一緒にいたい」

見つめていたおそ松の目から、一筋、涙が零れた。自分と違って滅多に泣いたりすることがないおそ松の涙に、慌ててしまった。
「お、おそ松…?」
「…ほ、んと…お前さぁ…」
片手で目を覆って天を仰ぎながら、おそ松の声が震えていた。
「…そーゆーとこ、ズルいよなぁ…」
泣き笑いの顔で、おそ松が言う。
だから俺は、出来る限りの笑顔で答えた。
「あぁ。何せ俺は、世界一カッコいい男の、弟だからな」