思いついたことを書く

思いついたことを思いついた順に書いていきます。お話が途中でもそのままかもしれないし、いつの間にか完結してるかもしれないし、なくなっているかもしれません。あと途中で小話はいります。

雪まつ!

深夜に音もなく降りだした雪は、翌朝にはすっかり一面銀世界に変えていた。時刻はAM7:00。普段と違う雰囲気にばちっ、と目を覚ました松野家五男 松野十四松が、勢いよくカーテンを開け放った。
「……ぅわぁ……」
普段から見開かれている目が殊更見開かれると、キラキラ反射した光が容赦なく突き刺さる。小さめの黒目がきゅっと引き締まった。
「…まぶし……なに、じゅうしまつ…」
カーテンから入ってくる光に、チョロ松が目を擦りながら起き上がった。時計を手に取り、時間を確認する。
「……まだ7時じゃん。ふわぁ~あ、まだ眠いよ…」
「ゆき!!」
「え~…ってか寒っ!十四松、早くカーテン閉めて」
布団に頭まですっぽり潜りながらチョロ松が訴える。
「……」
そっとカーテンを引くと、十四松はまだ夢の中にいる5人を横目に、部屋を抜け出した。

**********

「……はよー。あれ、十四松は?」
ようやく起き出したチョロ松が居間に向かうと、十四松の姿がなかった。
「おはよ、チョロ松兄さん。十四松兄さんなら、朝ごはん食べてすぐ遊びにいったよ」
「遊びって…子供じゃないんだから」
とチョロ松が呆れ顔で言うと、
「…ぅぉぉぉおおおおぉぉぉぉ…」
寄せては返す波の如く、十四松の声が響きわたった。
「…遊んでるね…」
「…うん、これは遊んでいるね…」
声の方向を二人で見つめながら、ため息をついた。

「てか何して遊んでるんだ?十四松のやつ…」
チョロ松が朝食を終えてもなお、外からは十四松の遊ぶ?声が聞こえていた。あいつちゃんと防寒してるんだろうな…?ちょっと見に行くか。
マフラーに手袋の完全装備でチョロ松が家の外に出ると、そこらじゅうに雪山ができていた。
「おい十四松、お前一人で何して」
「あ!チョロ松兄さん!」
気づいた十四松が、チョロ松の脇の小高い雪山の上に飛び乗った。…瞬間。
「……うわーーーーーっ!!!」
ドドドドドド…っと大きな音を立てて雪山が崩壊し、チョロ松を襲った。ほぼ雪崩である。
「……ぶはっ!…おい十四松!玄関先で雪崩とかどういうことだよ!死ぬかと思ったよ!」
「ぶはっ!ごめんなサイ!チョロ松兄さん!」
雪の塊を口から吹き出しながら十四松が言う。
どうにか抜け出し雪を払いながら、チョロ松が改めて尋ねた。
「…で、何を作ろうとしてたの」
「いぐるー!」
「…い、ぐる…なにそれ?」
「イグルー(イヌクティトゥット語:iglu、英語:igloo)とは、エスキモー諸民族のイヌクティトゥット語における家(季節や環境において大まかに3つの形態に使い分けられていた)を意味し、英語など欧米を中心にした言語での多くは、エスキモーの文化における住まいの「3つの形態の中の1つ」を取り上げた、極寒の状況における狩猟の旅先での、ツンドラ気候(および、氷雪気候)に適応した雪洞構造の避難施設(英語ではシェルターと記述されハウスではない)を言う。 俗に言うかまくらに近い。(Wikipediaより引用)」
「…あ、あぁ、無駄にいい声でWikiから引用の詳しい説明どうもありがとう…要するにかまくらね」
「うん!」
「でも作り方めちゃくちゃだよ!まずは雪を固めなくちゃ」
「あいあいさー!」

「…チョロ松の大きな声がしたようだが…」
「雪崩にでも襲われたんじゃないのー。てかカラ松、寒いからそこ閉めてよ!」
コタツに肩までもぐりこみながらおそ松が訴えた。
「ふっ…俺も白銀の世界に舞い降りるとするか…」
「うるさいクソ松○ね」
「いたいよねーいったいよねー」
兄弟たちの愛情(と勝手に解釈している罵声)を背中に浴びながら、カラ松は外に出て行った。

「おいブラザーズよ。俺のこの手が必要だろう?」
「いや別に必要かどうかで言えば必要はないけど」
カラ松が即突っ込む。
「カラ松兄さんもやりマッスル?!」
「これは…何を作ろうとしているんだ?」
「これはねー、いぐ」「かまくら。せっかくこんだけ積もってるから大きいのを作ろうと思って」
チョロ松が説明した。
「ほほぅ…つまりドリームハウスだな!俺も手伝おう!」
「じゃカラ松は雪でブロック作る係ね」
「まかせろブラザー!」
こうして一番地味で疲れる役回りをカラ松が引き受けることになった。

「…そこはもうちょっと角度が…」
「こうっすか?!」
「うん、そうそう。次は…」
「一丁上がったぜ!」

「…ていうか何時間外にいるのあの人たち?!寒くないのかなー」
にぎやかになってきた外の様子を、トド松が気にし始めた。
「ほっとけほっとけ。あいつら子供だからさー」
「ホント理解できないよね、こんな寒い日に外に出るとか」
「…暇だしちょっと見てこよっと」
いつものニット帽を目深にかぶると、トド松は玄関を出て行った。

「…うっわあなにこれ?!」
「これか?これは俺たちブラザーズのドリームハウスだ!」
「痛松兄さんは黙ってて」
「…はい…」
「トド松も手伝ってよ、結構大変なんだよ」
腰くらいまで積み上げられた雪の壁の内側からチョロ松が言う。
トッティもやろ!」
トッティやめてね十四松兄さん。って、手めっちゃ冷えてるじゃん!ちょっと待ってて!」
十四松から手を引かれたトド松が、慌てて家の中に何かを取りに戻っていった。少しして戻ってきて、何かを配り始める。
「そんな冷たい手でやってたらしもやけになっちゃうよ。ほら、これ使って」
差し出されたのはホッカイロだった。
「あっったけーー!トド松ありがとー!」
「うわ正直助かるよ。…っうー、あっためるとジンジンするなぁ!」
「これがお前のぬくもりというわけか…トド」「それ以上言うと取り上げるからね」
「で?これはこっからどうなるわけ?」
「えーとだな、ここら辺から角度をつけていって…」
「ふんふん…、あ、スノーハウス式のやつね。らせん状に積んでって…なるほど」

「…トド松もミイラになってしまった…つまらん…」
だんだん人数が減ってきて、おそ松が暇をもてあまし始めた。
「一松くーん、遊ぼうぜーなんかしようぜー」
「めんどい」
「つれないなー暇だなー」とコタツの中でしばらくゴロゴロしていたが、やがて
「…パチンコいこ」
と、のそのそと這い出ていった。

「おーやってんねお前ら」
「あ、おそ松兄さん。兄さんもやるー?」
外気の冷たさに頬を赤くした末弟が駆け寄る。その後ろには、胸くらいの高さまで積み上げられた雪塊が見えた。
「や、兄ちゃんはもっと大人の遊びをしてくるわ」
ひらひらと手を振りながら、おそ末はその場をあとにした。

しばらくして。
「あれー?おそ松兄さん!おかえリヒテンシュタイン!」
「いや十四松、なんかそのチョイスは微妙だろ…ってかどうしたのおそ松兄さん。パチンコもうすっちゃったの?」
「すってねーよ!…ほら、差し入れ」
と言いながら、ココアやらホットコーヒーやら入ったビニール袋をガサガサ揺らした。
「わーどうしたのおそ松兄さん!別人のようだよ!」
「そういうこと言う子にはやらねーよ?」
「あーん前言撤回!やっぱり持つべきものは兄だよね~!」
調子のいいことを言いながら、僕ココア~とトド松がビニール袋を漁り始めた。
「十四松兄さんコンポタでいい?」
「うん!」
「僕はカフェオレにしようかな」
「俺は…そうだな、甘い…」
「わりぃカラ松。残ってるのこれだけだったわー」
「…オーケー兄貴。その漆黒の闇、しかと受け入れよう…」
受け取ったブラックのコーヒーを、カラ松はちびちびと飲んでいた。

結局、部屋には一人、一松が残っていた。
(ホント理解に苦しむよね、こんな寒いのに)
外からはわいわいと5人の声が聞こえてくる。
(…別に、参加したいとか思ってないから)
対照的に、家の中は静かだ。
(……こたつ、あったかいし。こっちの方が絶対いいし)
顔の半分までこたつに埋もれた一松の目の前に、ニャンコが座った。
「にゃあー」
(………)
行かないの?と言われたような気がした。
(…………コンビニ、行くだけだから。本当、それだけだから)
一松が、ゆっくりとコタツから出てきた。

「うわ寒っ…やっぱ戻ろうかな…」
「一松にーさん!」
十四松の声のする方を見やると、雪のドームが目に入った。
「…は?なにこれ…」
「いぐるーですぜ!」
「『スノーハウス(英語: snowhouse 「雪の家」)とも呼ばれ、カナダ北端のマッケンジー河口付近からラブラドル半島にかけての地域で使用される。(Wikipediaより引用)』イグルーかいな~」
「いやなんでそんな詳しいの一松!」
「来たか一松…これが俺たちブラザーズのドリ…ごふぉっ」
言い切る前にコブシが腹に綺麗に入った。
「いや~でも結構大作が出来たよね!」ピロリン
「しっかしお兄ちゃん年だから疲れたわ~」
「同じ年だからね?!」
「…でもさ、これ…どこから入るの?」

「「「「「……え」」」」」

そう。硬く押し固められらせん状に隙間なく積み上げられた雪のドームには、入り口がなかった。
「しまった!!本家イグルーは雪の上に作って下から入るんだよ!アスファルトじゃ無理だよ~!!」
すぐにぐぐったトド松が嘆く。
「掘る?掘る??」
「待て十四松アスファルトを掘るんじゃねー!」
スコップを構えた十四松をチョロ松が必死で止める。
「硬く閉ざされた氷の檻…まるで俺の心のよ…ごふぉっ」
無言で一松が一発入れる。

「……じゃ、穴あけりゃいんじゃん?」

慌てふためく兄弟の後ろから、いつもの調子でおそ松が言った。
「…ま…」
最初に口を開いたのはチョロ松だった。
「待ってよおそ松兄さん!あんなピッチリ積み重なってるのに穴なんて無理だよ!」
「そうだよおそ松兄さん!どっか抜いたらきっと崩れちゃうよ~!」
トド松も必死に止める。
「兄貴…俺はお前を信じてるぜ…」
「黙れクソ松。…にしたってどうする気なのおそ松兄さん。トド松の言うとおり抜けそうなとこなんてないよ?」
慌てた十四松は、除雪車のように雪を噴出していた。
「ふっふっふ。こういうピンチの時に、現れるのが主役、ってね~…」
言いながら、おそ松がドームの周りをぐるぐると回る。
その様子を、5人の弟が固唾を飲んで見守っていた。
ある一箇所に差し掛かったとき、その足が止まった。
「「「「「…………」」」」」
ごくり。
「………ここだああぁぁぁーーーーっ!!!!!」
おそ松が、助走をつけてドームに飛び蹴りをかました!
…どごぉっ!!
鈍い音がして、大量の雪が舞った。

「………いてて…ほら、大成功~」
「「「「「……おそ松兄さん、すっっげぇぇ~~!!!」」」」」
5人が両手を挙げて駆け寄った。
「さすが僕の兄さんだよ~!決めるときは決めちゃうんだから、ずるいよねぇ~!」
「すっげ!兄さんすっげ!」
「…やるじゃん」
「こういう思い切りはやっぱ兄さんが一番だよね!」
「信じたとおりの漢だぜ…兄貴!」
「いやぁ~照れるなぁ~もっとほめていいのよ?」
次々と褒められ、おそ松は鼻の下を指で擦った。

「じゃ、お邪魔しま~す」
開いた穴から、中に入ってみる。
「外から見るより、結構狭いね?」
最初に入ったトド松が言った。
「ブロックが大きかったのかな?6人くらいは入ると思ったんだけど…」
言いながら、チョロ松が中に入る。
「おぉ、これが俺たちのセカンドハウスか!」
「おいクソ松もっと詰めろ」
カラ松を蹴飛ばしながら一松が入ってくる。
「ひえ~ギリギリだなぁ」
おそ松が入って、もうほとんどいっぱいいっぱいになった。
「………」
十四松は考えた。自分が入ったら、壊れちゃうかも?それは、嫌だな…。

「…きなよ、十四松」
迷ってる十四松に最初に声をかけたのは、一松だった。
「そうだよ十四松兄さん!十四松兄さんがいないとこの中癒しが足りない!」
「十四松…このハウスにはお前の汗と思いが詰まってるんだ。お前が入らないと意味がない…」
「朝から一番がんばってたの、十四松だもんな。ほら、おいで!」
「だーいじょうぶ大丈夫。兄弟を信じなさいって」
「……うん!」
意を決して、十四松が頭を突っ込んだ。
「ぐっ…もっと詰めろトド松!」
「もうギリギリいっぱいだよチョロ松兄さん!雪壁冷たい!」
「おいクソ松お前天井に貼り付け」
「ふぇっ天井?!」
「………、い~よいしょぉ~!」
すぼぉっ
「入っ、た!」
…瞬間。
ぴしっ
「…?」
ゴゴゴゴゴゴゴ…
「…う、うわぁぁぁぁぁ……!!!」
ドームが、風船みたいに弾けた。

**********

「…ぅぶしょぃ!」
「ちょっと!カラ松兄さん鼻水キタナイ!…っくちっ!」
トッティくしゃみまであざといとかヒクよね…ちんっ!」
「おま…いう……無理、突っ込む体力ない……あれ、十四松…?」
「………」
「息して息!……あ、もうホントに、無理…」ぱたり。

かくして5人、風邪を引いたわけだけど、何故だかおそ松が一人、元気だった。
本編14話へと続いたり、続かなかったり。